不動産・相続

会社の未来を託す事業承継の進め方【2】

事業承継は経営者の大切な終活のひとつ

税理士法人 児玉会計 税理士 大谷博昭さん



児玉会計本社ビル外観

●事業承継の準備はいつ頃を目安に?

 中小企業の場合、カリスマ的な存在である創業経営者が陣頭指揮をとり、牽引役となって会社を支え、成長させてきたケースが多いものです。経営者本人もそれを自負しており、「自分はまだまだいける」との思いから、事業承継の準備を先送りしていたり。また、後継者となるご子息や従業員に頼りなさを感じて「自分がいなくなったら困るのではないか」と、事業承継に消極的だったりする場合が少なくありません。

 しかしながら、事業承継には5年から10年という長い時間が必要です。日本の経営者の退任年齢は平均70歳前後と言いますから、少なくとも60歳を過ぎたあたりで、事業承継の準備に着手しておかれるといいのではないでしょうか。

 ただし、会社それぞれで環境や条件が違いますので、自社にあったタイミングを見極めてください。

●親子(親族)承継でうまくいかないケース?

 よくある話ですが、親子関係にある経営者と後継者が、事業運営に関する考え方の違いで、喧嘩ばかりしているケースです。

 例えば、開業医をしている70歳のお父さんの後を継ぐために、40歳の息子が大病院の勤務医をやめて戻ってきたとします。
そして一緒に診療にあたったところ、治療方法も違うし、投薬の種類も違う。息子から見ると父親のやり方が古いと感じ、ついつい「時代遅れだよ」と言って怒らせてしまう。

 また、大企業に就職し、技術やノウハウをいろいろ学んで返ってきた娘が、中小企業の会社運営にまどろっこしさを感じて「もっと合理的にやらないと」とか言ってしまい、父親の逆鱗に触れたなどということはよく耳にします。

 ただ、当人同士での話ならいいのですが、従業員を巻き込んでの親子喧嘩となると、経営者派、後継者派に別れての派閥争いにつながり、承継どころの話ではなくなってしまいます。「従業員の前で喧嘩はしない」ことが、最低限のルールかもしれません。

 その他、時が来ればこの会社を継いでくれるとばかり思っていた息子(娘)が、本当は継ぐ意思を持っておらず、後継者のあてがなくなった例も少なくありません。
 前述の親子喧嘩しかり、普段からのしっかりとした意思疎通やコミュニケーションが大切です。

●事業承継は経営者にとっての終活?

 経営者にとって「事業承継」は、大切な終活の一つとも言えます。引き継ぐ物の中には、株や資産なども含まれますから、それらもスムーズにバトンタッチしたいものです。

 そのためには、遺言書を書くことも大切な準備の一つですが、自分の死を前提として手紙を書く話なので、誰しも嫌であり、できれば避けて通りたいと考えてしまいます。
 また、相続を「争続」と言い替え、「親族での争いが起こらないように遺言書を書きましょう」と危機感を煽りながら説得しようとする人もいて、余計にネガティブな雰囲気を醸し出してしまいます。「争続」と言う言い方はすぐにでもやめてほしいものです。

 そもそも昔の遺言書は、財産分与について書き記すものではありませんでした。何を書いていたかと言うと「あの山にあるあの滝は危険だから決して近づくな」、「うちの家系では、この名前をつけると運が良くなる」など、親から子供への言い伝えや教えのようなものでした。
 それが時代が変わり法律ができたことによって、財産分けの話が先に出てしまい、「自分が死んだ後の分け前の話」と言うイメージがついてしまったわけです。

 そこで、私が銀行や証券会社主催の講演会で話す場合、「遺言書は子供たちに渡す最後の通信簿ですよ」と伝えます。

 通信簿ですから、「生まれてくれて、育ってくれてありがとう」「あのときはこうしてくれて嬉しかった」などなど、子供たちへの気持ちを素直に書き記せばいいわけです。
 もちろん、腹が立ったことを書いても大丈夫。「あの時私のことを頑固親父って呼んだけど、あれは許せんかった」とか。それも通信簿の一つあり方です。

 そして子供たちへの想いを綴った後、「財産についてはこれこれの理由でこうしたい」と書けば、渡される側も納得してくれるものです。

 このように考えると、最後に通信簿も渡さないのは、親としての義務を果たしていないのではないでしょうか。遺言書という最後の通信簿で、大切な子供たちを教育するのが親の務めだと考えれば、遺言書への抵抗感はきっとなくなるはずです。

 というのも「遺言」は、親と子供を結ぶ「結言」でもあるわけですから。

 私たち児玉会計では、中小企業を支える経営者の皆さんのお悩みにしっかりと寄り添い、一緒に解決していきたいと考えています。どんな相談事も気軽にご相談ください。