不動産・相続

会社の未来を託す事業承継の進め方【1】

事業承継の準備で大切なポイントを教えてください

税理士法人 児玉会計 税理士 大谷博昭さん



児玉会計本社ビル外観

●事業承継に関する相談が増えていると聞きました

 中小企業経営者の高齢化が進む中で、事業承継に関するニーズや関心が増えてきており、相談にみえられる方もたくさんいらっしゃいます。

 事業承継は、親族や従業員、または第三者の中から後継者を選び、会社の事業を引き継いでいくことです。ただ現実問題として、後継者が見つからず、やむを得ず廃業を選ばざるを得なかった企業も少なくなくありません。廃業となると、その会社が長年培ってきたノウハウや貴重な経営資源を失ってしまうばかりか、従業員が雇用の場を失くし、また取引先や顧客に迷惑をかけてしまうなど、その影響は決して小さくありません。

 できれば手塩にかけてきた大切な会社が、永続・発展していけるよう、次の世代へうまくバトンを渡したいと思うのが、多くの経営者の願いだと思います。

●事業承継の進め方について教えていただけますか?

 従業員やその家族、そして顧客や取引先など、会社経営には大きな社会的責任が伴いますから、事業を引き継ぐにあたっては、その方向性を間違えないようにしなければなりません。そのためにも、経営者自らが今一度会社と向き合い、5年後、10年後の会社の姿をしっかりと思い描くことがスタートラインになります。 拡大路線なのか、それとも現状維持か、そのための経営資源はどうあるべきかなど、イメージを明確にしていくことが大切です。

 またこの段階で、社員一人一人の思いや考えをしっかりと聞く時間をつくることも必要です。仕事や会社に対する思いや将来のビジョン、今後のキャリアに関する希望や悩み、はたまた家族や生活環境など、経営者が自分なりにリサーチを行い、人材リソースの理解と再確認をします。大切にすべき従業員をどう大切にしていくのか、その方法を考えることが経営者の責任です。

 会社が収益を上げるための源泉となる知的資産の棚卸しも必要です。まずは取引先に対して、会社と会社のお付き合いができているかどうかを見る必要があります。長いお付き合いのところは特に営業担当に全部任せているケースが多く、関係が個人対個人になってる可能性があります。

 そのほか、顧客情報や人脈、技術・ノウハウなどが属人的なものになっていないかどうか見直します。あわせて、株式や事業用資産、資金などについても改めて洗い出しをしておくといいでしょう。

●事業承継における後継者選びは?

 誰に会社をバトンタッチするかも重要な判断となります。中小企業は、経営者の能力がそのまま会社の盛衰に関わります。息子(娘)や親族だからいいというものでもなく、番頭さん的存在の役員や従業員に適格者がいるかもしれません。もしくはM&Aで第三者企業に委ねるケースも増えてきています。

 その中で後継者として一番多いケースは、やはりご子息など親族内での承継です。後継者を早めに設定することができ、長期的な育成ができることもメリットです。会社の所有(株式)と経営を一体的に引き継ぎやすいため、スムーズな承継が期待できます。
 早期から父親のもとで番頭さんのように働いているご子息が継げば、よりスムーズに事が運びますし、一旦銀行や商社に就職し戻ってくるケースでも、サラリーマンとしての厳しさを知ってるため、平社員の気持ちも分かりますし、取引先とのお付き合いもうまくできるため、運営の上では順応しやすいケースだと思います。

 また、親族以外でも、会社の番頭さん的存在だった方であれば、おそらく従業員の心を完全に掴んでる方が多いので安心できます。M&Aは、日本ではあまりいいイメージを持たれないかもしれませんが、会社統合のノウハウを持っている企業との話となりますから、何の問題もなく、従業員にとっていい環境になることが多いようです。

●事業承継で気をつけなければいけないことは?

 事業承継を進めていく上で、物事をドラスティックに進めることは絶対してはいけません。引き継ぎを突如宣言し、そのために必要だからと企業理念や就業規則などを急ぎ足で改訂したりすると、従業員も戸惑い、反発しか生まれず、途中で頓挫してしまうことがほとんどです。

 経営者の意識改革や会社の状況の把握など、しっかりと煮詰めなければなりません。そのためには、少なくとも5年~10年間ほどの時間は必要です。いろいろなアドバイスを聞いたり、現場の匂いとか雰囲気を確認しながら、少しずつ実践していくことが大事です。

 ただ、事業承継について、誰に相談すればいいのかわからない、何からどう進めたらいいのかわからないと、一人で悩まれている経営者が多いのも事実です。
 その際は、気軽に私たち専門家にご相談ください。児玉会計では、税理士、弁護士、司法書士、社会保険労務士がグループとなり、経営者の皆さんの相談にあたっています。

 大切な会社の未来を見据え、事業承継をしっかりと成功させましょう。